ただ甘いだけじゃない。香りと余韻のあるぶどう。
熊本・和水町
嶋田農園の
「シャインマスカットと
BKシードレス」
大粒の実を噛むと、みずみずしい果汁とともに濃い甘みが広がり、ふわっと香りが抜けていく。そして、飲み込んだ後にもぶどうの味わいが残ります。
熊本県和水町の嶋田農園で、嶋田誠さんが目指しているのは、ただ甘いだけではなく、香りと余韻のあるぶどうです。今回お届けするのは、爽やかな香りをもつ「シャインマスカット」と、濃厚な甘みが魅力の黒ぶどう「BKシードレス」。
品種によって味わいは異なりますが、そのおいしさをつくるために嶋田さんが何より大切にしているのが、ぶどうの樹を根元から支える「土」です。
50年以上続くぶどう農家、
3代目の嶋田誠さんです。
嶋田農園の約50アールの畑には、頭上いっぱいにぶどうの枝が伸び、青々とした大きな葉が重なります。畑を案内してもらうと、嶋田さんが見ているのは、実っているぶどうだけではないことが分かります。足元の土を手ですくい、草の状態を見て、葉を確認する。「おいしい実をつくるためには、まず樹そのものを健やかに育てる」。その考えが、畑の随所に表れています。
ふかふかの土から、
ぶどうの味をつくります。
農園の畑の土を手に取ると、やわらかく、ふかふかとしています。この土地に堆積した火山灰などによって形成された「黒ボク土」です。保水性があり、嶋田さんはその特徴を生かしながら、毎年土づくりを重ねています。
使うのは、植物性の有機物を中心とした土壌改良材。土の中の環境を整え、根がしっかりと張れる状態をつくります。さらに取り入れているのが、魚介由来の肥料です。
「目指しているのは、糖度の数字だけを上げることではありません。甘みに加えて、旨みやコクがあり、食べた後まで印象に残る味。そのために土づくりから行います」と嶋田さん。
草を生かし、乾燥から
土を守ります。
嶋田農園では、地面をむき出しにせず、草を生やす「草生栽培」を取り入れています。畑で目につくのが、一面に広がるクローバーです。マメ科のクローバーは、根に共生する根粒菌の働きによって空気中の窒素を植物が利用できる形に変えます。窒素は、葉や枝の生育に欠かせない栄養素のひとつです。
また、地面には藁を敷いています。土の表面を覆うことで強い日差しによる乾燥を防ぎ、土の水分を保ちます。草を取り除き、土を裸にするのではなく、そこに生える植物や有機物も土づくりに生かします。
大きく、力強い葉が
実を育てます。
取材で印象に残ったのが、ぶどうの葉の大きさと力強さです。頭上には、手のひらよりもずっと大きな葉が幾重にも広がっています。
根が土から吸い上げた水分や養分を使い、葉は太陽の光を受けて光合成をします。そこでつくられた糖などの養分が、枝を通って一房一房の実へと運ばれていきます。
だからこそ、嶋田さんは実だけではなく、葉の状態にも目を配ります。よい実を育てるために、まずよい樹を育てる。土、根、葉、そして実。そのすべてがつながって、一粒のぶどうになります。
「緑」ではなく、
少し黄色くなるまで待ちます。
ぶどうが大きくなったら、あとは収穫ではありません。最後に待っているのが、収穫時期の見極めです。嶋田さんは房を下から見上げ、ぶどうの「トーン」を確認します。
シャインマスカットなら、まだ青々とした緑色ではなく、少し黄みを帯びた緑色へ。見た目の鮮やかさだけで判断せず、味がしっかりとのるまで待ちます。
さらに確認するのが、一粒一粒の状態です。粒がみっちりと締まり、実に特徴的なくぼみが現れているか。色、粒の張りや形、そして実際の味。その小さな変化を見ながら、収穫するタイミングを決めています。
香りまで味わう、
シャインマスカット
皮ごとパリッと食べられるシャインマスカット。噛むと張りのある皮が弾け、みずみずしい果汁と強い甘みが口いっぱいに広がります。
そして、嶋田さんが大切にしているのが「香り」。ただ甘さが強いだけではなく、口に含んだときに品種特有の爽やかな香りが広がり、食べ終えた後にも心地よい余韻が残るよう、樹上でじっくりと熟すのを待って収穫します。黄みを帯びた果皮は、おいしさが十分にのったサイン。見た目の鮮やかな緑色だけでは分からない、熟したシャインマスカットの味わいをお届けします。
嶋田農園のシャインマスカットは、2022年の全国野菜ソムリエサミットで銀賞、2025年の全国野菜ソムリエサミットぶどうグランプリでも入賞しています。
濃厚な甘みとコク、
BKシードレス
もう一つお届けするのが「BKシードレス」です。「BK」の名は、交配親であるマスカット・ベーリーAの「B」と巨峰の「K」に由来する、九州大学で育成された品種です。粒の大きさはベーリーAと巨峰の中間ほど。ジベレリン処理(無核化処理)を行わなくても自然に種が入らない完全無核品種で、酸味が穏やかで糖度が高いのが特徴です。皮をむいて口に含むと、果汁があふれ、濃い甘みが広がります。
シャインマスカットが爽やかな香りと上品な甘みを楽しむぶどうなら、BKシードレスは黒ぶどうらしい濃厚さとジューシーさが魅力。
個性の異なる二つだからこそ、食べ比べると嶋田農園が目指す「甘さだけではないぶどう」の魅力が、よりはっきりと感じられます。
文・林麻実











